40. キャリア・アンカー
キャリアについて勉強したことのある方なら誰でも知っている言葉です。が、残念ながら人材紹介会社のコンサルでこの言葉を知っている方は2割もいないでしょう。(なぜなら、当方の勤務先がそうだからです。)
本日はこの「キャリア・アンカー」について触れますが、もちろん、ブログ上での記述になりますので、より詳細な内容をお知りになりたい方は、専門書や解説書を読まれることをお勧めします。
一点、大前提として、どんなに優秀なキャリアカウンセラーでも、登録者(=求職者。JCDAではクライエント)の経験(転職歴や学歴も含む)や実績は「絶対に変わりようがない」ということです。もちろん当たり前のことです。
繰り返しますが、転職や再就職を試みる際にネックとなる2大要因の「経歴」と「年齢」は絶対に変わりません。但し、キャリア・コンサルタントと登録者の間に、キャリアに関する理論を介在することで
(1)今までの経歴(もしくは実績)に対する解釈が変わる「可能性がある」。
(2)今までは変化しなくとも、これから働く上での「マインド」が変わる「可能性がある」。
(3)今まで何らかの要因でキャリア・デザインに失敗した場合、その要因が明確になり、今後失敗しなくなる「可能性がある」。
という3つのメリットを享受することができます。
全ての人材紹介会社のコンサルが、これらの理論を求人紹介以外に提供できる「付加価値」というレベルにまで理解できれば、キャリア支援に従事するものとしてのレベルが上がったことになると当方は認識しています。(おそらく無理な話ですが)
さて、本題です。エドガー・シャイン博士(マサチューセッツ工科大学経営大学院名誉教授)は、日本での講演(確か2006年だったと記憶しています)の中で「キャリア・アンカー」について
(1)自分自身のセルフ・イメージ(例:○○に秀でている、○○によって動機付けられている、○○に自分自身は価値を見出している等
(2)キャリアや人生における判断基準となっており、一方、制約にもなっているもの
(3)そして、それは仕事の経験の積み重ねによって形作られるもの
と語っております。
多くの働く人々は、意識するしないに関わらず、キャリア・アンカーを形成しながら仕事に従事しているわけです。初めからあるべき姿を求めて、それに向かって日々努力する人もいれば、気が付けば自分はこんな仕事でこんな職業能力を身に付けていた等、キャリア・アンカーの形成プロセスは実に千差万別です。当方の日常業務からの理解では、
(1)25~30歳くらいまでにキャリア・アンカーが形成されるほうが、キャリア・デザイン上好ましく、万が一の転職の場合にもスムーズに且つリスクヘッジされる形で行うことができる。
(2)より強固なキャリア・アンカーが形成された方のほうが、予期せぬ出来事が起こった場合にも順応し対処されやすい。
ということです。よって登録者(=求職者)がキャリア・アンカーを認識されていないケースがあった場合には、「何がそれに当たるか?」を一緒に考えるプロセスが発生します。その際のきっかけとなるのが、同じシャイン博士の「3つの問い」です。
(1)自分は何ができるか?
(2)自分は何がやりたいか?
(3)自分は何をしているときに社会的意義を感じるか?
です。当方が所属する日本キャリア開発協会では上記の(1)を能力、(2)を興味、(3)を価値観と置き換えて図示しますが、いずれにしても上記3つの重なる部分が多い仕事であればあるほど、その仕事は本人にマッチしていると言えます。また、上記3つの問いに対する答えが、そのままキャリア・アンカーになると考えて頂いて結構です。
おそらく30代以上の方はほとんどが、このキャリア・アンカーは明確になっているはずです。一方、20代の社会人経験がない方、もしくは3年未満の方、さらには中高年でリストラによって今までの職業人人生に自信を失っている方々は、キャリア・アンカーは脆弱なものになっています。これらの方々は、まず、キャリア・アンカーを形成(もしくは修復)するところから支援をする必要があります。
でないと、最終的な意思決定(つまり職業を選択するという最終決定)の場面で、本人が不安を抱えたまま判断がつかない事態が発生します。しかし一方で、自らの実績やインセンティブ、もしくは月末の締め等の人材紹介会社側の都合を優先させる為に、働く本人のキャリア・アンカーがあいまいなまま入社承諾の最終判断をさせる人材紹介会社が世の中に蔓延しているのも事実です。
その結果が何年経っても一向に減少しない「早期離職」です。正しくキャリア・アンカーが認識され、正しいマッチングが行われれば、ミスマッチや早期離職はゼロになります。
しかし残念ながら、「キャリア・アンカー」の言葉すら知らない人材紹介会社のコンサルに、いくら言っても馬の耳に念仏です。
よって、そのような人材紹介会社のコンサルは、非公開求人の情報収集ルートの手段として「のみ」使って頂いて、相談事の核心や最終意志決定をする場面などは中立的なキャリアカウンセラーに頼るといった使い分けが必要かもしれません。