41. プランド・ハプンスタンス理論
「プランド・ハプンスタンス理論」とは、スタンフォード大学教授のJ・D・クルンボルツ氏が唱えたキャリアに関する理論で、かなりインパクトを学会でも与えたそうですし、特に不確実な現代社会で働く方々に当てはまるということで当方もよく引用させて頂いています。
日本語訳では「計画的偶発性理論」とされています。しかし、これでは何のことかさっぱりわかりませんので、戸田智弘氏の著書『働く理由』から引用しますと、
「世の中の変化は激しくなる一方だ。そうした中、自分の思い描いたとおりのキャリアを実現していくことはますます難しくなる。むしろ現実に起きたことを真摯に受け止め、その中で自分を磨いていく力が求められる。そのために自分から何かを仕掛けて予期せぬ出来事を作り出していこうとする意志が必要になる」
というのが解説です。これも当たり前のことを言われているような感覚になりますが、その「予期せぬ出来事」に順応し、「結果として」良いキャリアを自ら作っていくために以下の5つの能力が必要というのがクルンボルツ氏の主張です。
(1)好奇心
(2)持続性
(3)柔軟性
(4)楽観性
(5)冒険心
そして、キャリアカウンセラーは登録者(=求職者)あるいは来談者に、上記5つのスキルを磨くようアドバイスすべきというのがクルンボルツ氏の観点です。
さらに先述の戸田智弘氏の解説を加えますと、
(1)キャリアの選択肢をオープンにしておくこと。(5年後や10年後には無くなっているかもしれない仕事だけに選択肢を狭めることはリスクが高い。)
(2)幸運が舞い込んでくるのではなく、幸運を作り出すために行動をすること。
(当方は、「No Apply, No Interview, No Achievement(応募しないと、面接にも進めないし、内定も取れない)」と日常業務ではよく話をさせて頂いています。)
(3)夢を描いてばかりでなく、夢に向かって少しずつでも試してみよう
と補足されます。さらに、クルンボルツ氏は「キャリアの80%は予期しない偶然の出来事によって支配される」と結論付けており、これを換言すれば「将来の目標を決めて、逆算的に計画的なキャリアを作っていくような手法は現実的でない」(大久保幸夫著『キャリアデザイン入門』より)となるわけです。
実はこれは正に当方にもあてはまる部分です。現在キャリアに関わる仕事をさせて頂いていますが、20年前に「キャリアカウンセラー」になるとは想像すらしていませんでした。いくつかの偶然が重なり、現在の勤務先に勤め、「キャリア」に関するネットワークができ、今の当方が存在することを考えますと、「心から共感できる」キャリアに関する観点です。
しかし、実際はこの段階でもピンと来る方は少数派ではないでしょうか。さらに興味のある方は、所由紀著『偶キャリ。』をお勧めしています。ビジネスの第一線で活躍している方10名の具体例を挙げ、どのような偶然がその方々のキャリアに「良い」影響を与えたか?どのような行動が「偶然」を招いたか?が説明されています。この本を一読頂けましたら「プランド・ハプンスタンス理論」が大枠でご理解頂けると思います。キャリアで成功した方々が、計画されたキャリアデザイン通りにキャリアを積んでいないこともお分かり頂けると思います。
(最近参加できていませんが)当方が所属する学会での研究でも「様々な出来事や環境から、労働者個人は自分自身の職業キャリアにあり方について意識する機会を得るが、その効果を作り出すのは『受け取る個人の中にある様々な力』である」と結論付けています。(すみません。出所が不明です。)つまり『受け取る個人の中にある様々な力』が上記の5つの能力になるわけです。
「まずは一歩踏み出そう!考えるのはそれからだ!」
と言うと、短絡的な方は「そんな精神論は不要だ!!」と反論するでしょう。が、実は精神論「ではなく」、キャリア理論に裏打ちされた考えであることをご理解頂ければと思います。