25. 仕事の喜び(5)
先日来、「ヒト」相手の仕事のほうが喜びや誇りを得られる機会が多いと記していますが、別に営業職や販売職でなくても仕事に喜びや誇り、さらには感動を得られるケースはあります。
若干、趣旨が異なるかもしれませんが、あるエンジニアの方が仕事への思いをしたためた手紙です。「感動プロデューサー」の平野秀典氏の講演で、当方も直接伺った話ですが、たまたま平野氏が書かれた「感動力」(サンマーク文庫)にもありましたので、全文を引用します。(「感動力」の165ページからの引用です)
★★★★★
「この商品のターゲット」---開発用語では、このような失礼な言い方をしていますが、ぜひ、この商品を使っていただきたい方々を最初に決めました。
「こどもも独立、仕事も落ち着き、これからゆっくり自分たちの時間を楽しめる夫婦」と。
ちょうどこのようなタイミングにさしかかったとき、あなたは病気に倒れ、そのまま私たち家族の前から消えてしまいました。これから思う存分、自分の好きな時間を過ごしてほしかった。
開発チームの中では、先ほど言ったような方々をイメージしてものづくりを行ってきましたが、私が心に描いていたお客さまは、お父さん、あなたひとりです。
私の心の中には、永遠に年をとることのない60歳のあなたがいます。
2年半という長い年月と、30名の開発チームみんなの力を借りて、今、ぜひあなたに使ってほしい、世界にひとつだけの作品ができあがりました。
仕事から帰ってきては、居間に置いてあるマッサージチェアで眠るように疲れを癒していたあなたのために、新型のお風呂をプレゼントします。
ゆったりと眠るように浸かっていれば、足の裏をマッサージしてくれる世界一気持ちのいい浴槽です。
足の裏には全身のツボが集約されていて、そこを毎日刺激することで、体調の維持管理ができるのです。
いつまでも若さを保っている元気なあなたが見たかったのです。
あなたと同じ、ものをつくるという仕事についてから、ようやくあなたの日々の苦労がわかるようになりました。橋の設計をしていたあなたは、一度いっしょにお風呂に入ったとき話してくれました。
「橋は人の命を預かっている。もし橋が落ちたら人は死んでしまう。どんなことがあっても橋は落ちるわけにはいかないんだ」と。
安全ということには人一倍神経をすり減らしていたあなたに、今度は私から、世界一安全なフロアをプレゼントします。特殊な性質をもったとても滑りにくい魔法のフロアです。少し足腰が弱ってきたと不安をこぼしていたあなたも、これで安心して入浴ができます。
京都の冬はほんとうに寒かったですね。いつもラクダのシャツとパッチをはいていた寒がりのあなたのために、世界一断熱性の高い壁をつくりました。自分の体より母の体調をいつも気遣っていたあなたのために、掃除を楽にするアイデアをたくさん盛り込みました。汚れにくいお風呂になっていますから、あとの掃除のことは気にしないでゆっくり入ってください。母も喜んでくれると思います。
あなたのために考えたアイデアは、まだまだたくさんあります。あと10年早ければ、あなたにも使ってもらえたのですが。
残念ながら、実際に使っていただくことはできませんでしたが、できあがった商品をあなたに見てもらいたくて、新商品の発表展示会は実家のある京都に行くことにしました。酒でもゆっくり飲みながら感想を聞かせてください。
そのときを楽しみにしています。
あなたの息子より
★★★★★
次回に続きます。